ご挨拶

顔写真:貝谷 久宣

貝谷 久宣

一般社団法人日本筋ジストロフィー協会 代表理事

 

 

ベッカー型筋ジストロフィー分科会設立にあたり

 

筋ジストロフィーという病気は遺伝子研究により詳しく分類されるようになり、現在わかっているだけでも65種類あります。協会には神経性筋萎縮症の会員も入会していますので、協会は筋肉の病気のさながらデパートのようなものです。また、罹病年齢、臨床症状、遺伝子変異部位も種々様々ですので新生児から老人までバラエティーに富んだ患者さんが入会しています。

協会には現在、分科会として福山型筋ジストロフィーと顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの分科会があります。

 

この度、ベッカー型筋ジストロフィーにおいても鳥越勝さん、遠藤光さん、柴崎浩之さんのご三方の肝いりで分科会が新しく設立されることになりました。3人ともエネルギーに満ちた青年ですので、これからの会の発展が楽しみです。この分科会の顧問は独立行政法人国立病院機構まつもと医療センター中村昭則神経内科部長になっていただきました。中村先生は現在日本におけるベッカー型筋ジストロフィー研究のトップランナーのおひとりです。

 

ベッカー型はデュシェンヌ型筋ジストロフィーの陰に隠れ大々的な研究が行われてきませんでした。現在、世界中でデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治験は数多く行われていますが、ベッカー型についてはほとんど目につきません。これら筋ジストロフィーは両者ともジストロフィン遺伝子の変異により生じるので、デュシェンヌ型が治ればベッカー型も治すことができるようになるだろうと言った安易な考え方によってベッカー型に多くの目が注がれてきていませんでした。このような状況下においてベッカー型筋ジストロフィー分科会の立ち上げは非常に重要性が強く、大いにその存在意義を世の中に知らしめ、治験の遂行を世の中に広く深く訴えていかなければなりません。

 

日本筋ジストロフィー協会のモットーは「一日も早く」です。この少しでも早く治療の手が及ぶようにと言う強い願いの中でベッカー型筋ジストロフィーの分科会も生まれます。どうぞ皆様のご注目とご声援そしてご協力をよろしくお願いいたします。

 

令和4年5月1日

顔写真:中村 昭則

中村 昭則

ベッカー型筋ジストロフィー分科会 顧問

独立行政法人国立病院機構まつもと医療センター 臨床研究部長、脳神経内科部長

 

ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)分科会活動の重要性について

 

ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)と同じジストロフィン(DMD)遺伝子の変異により筋の膜に局在するジストロフィンが欠損して発症する難病です。DMDではジストロフィンが完全に欠損するため重篤な経過をとりますが、BMDでは不完全ながらもジストロフィンが産生されるため、一般的には軽症と理解されています。しかしながら、症状や経過は患者間で大きく異なり、中には筋症状は軽くとも心筋障害が強く出現して心不全から心移植に至る例もあります。

 

近年、発症前に血清クレアチンキナーゼ(CK)値が高いことに気づかれ、遺伝子検査からBMDと診断される患者さんが増えています。しかし、遺伝子変異と重症度の関連がよくわかっていないことや根本治療の提案がないために、定期的な受診や検査に結び付きにくい状況がありました。さらに、一部の患者さんに知的発達障害やてんかんを認めることがあるものの一般的にはあまり知られてはいません。また、DMDに対してはエクソン・スキップ治療などの様々な新規治療の臨床応用や治験が進められていますが、BMDに対する根本的治療に向けた取り組みはほとんどありません。

 

私はこれらの問題を解決するために平成30年度から日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業として、筋ジストロフィー臨床試験ネットワーク加盟22の医療機関の共同による「BMD自然歴調査研究」を推進しています。BMD患者さんの遺伝子変異情報と臨床情報を収集し、骨格筋・呼吸機能・心機能・中枢神経障害の解析と遺伝子型との関連について検討を行っています。また、本研究の中でBMD患者さんご家族や支援者の方々抱えておられる問題を明らかにする取り組みも行っています。

 

この度、日本筋ジストロフィー協会のご支援のもと鳥越さん、遠藤さん、柴崎さんによるBMD分科が設立しました。私も分科会活動に参加、協力させていただくことになりました。BMD患者さんの健康管理、治療法開発、社会支援、そして活躍社会を実現するための重要な活動の場となります。本分科会への皆様方のご理解、ご支援、およびご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

 

令和4年5月1日

顔写真:鳥越 勝

鳥越 勝

ベッカー型筋ジストロフィー分科会 会長

 

 

ベッカー型筋ジストロフィーの仲間たちと共に

 

私は12歳でベッカー型筋ジストロフィーと診断を受け18年間周囲に打ち明けられず隠し続けてきました。孤独にもがき苦しみながらも、様々なことを病気のせいにして半ば諦めの境地で生きていました。また日常生活において特に問題も感じず、根底には「どうせ治療方法がないんでしょ?」という考えもあり、長期間、通院もせず、筋ジストロフィーとは距離をおいて過ごしていました。

 

しかし4年ほど前から、ベッカー型筋ジストロフィーをオープンにするようになり、多くの難病や障害のある方と出会ってきました。特にBMDの仲間に出会った時には「ああ、この人たちは自分のことを理解・共感してくれるなあ。」とすごく心が救われ安心した気持ちになりました。それを機に、難病や障害のある仲間のために情報発信やコミュニティ運営をするなかで、いつしかその活動が「生きがい」になってきました。そんな仲間への人一倍強い「思い」を感じてもらったためか、知識や経験は少ないながらも分科会の代表に推していただき引き受けさせていただくこととなりました。

 

私自身まだまだBMDの研究に関する知識は少ないものの、昨年の中村先生の講演を伺い思いの他、研究が進んでいそうなこと、注力して研究したら治る病気になるかもと思いました。加えて、近年の遺伝子解析技術やコンピューターの発達、他の神経難病の新薬ニュースなどを鑑みると数十年、早ければ数年で治る病気になるのでは?と希望を感じ、研究の前進はとても大切だと強く思いました。同時に研究を進めるためには当事者の声が不可欠ですので、この分科会からも声を上げていければと思います。

 

一方で私自身この数年間、筋ジス当事者として難病に関する情報発信やコミュニティ運営をしていました。そこで解決できることもたくさんありましたが、同時に難病支援や障害福祉の仕組みに限界を感じる部分も多々ありました。その点において、これまでたくさん筋ジストロフィー患者のためにご尽力をされ具体的な成果をあげてきてくださった、筋ジストロフィー協会のみなさまが培った経験やネットワークを借りれば、当事者が直面するさまざまな課題を解決するための提言など具体的な法律制定や制度改正などの動きに繋がると確信し、当分科会でもそうした取り組みができると期待しています。

 

加えて、私自身、ベッカー型筋ジストロフィーの症状のひとつである心臓への影響について知識がなく、長期間通院を怠り、少し悪化してから所見がみつかりました。これは一例ですが、どうしてもベッカー型特有の症状が軽めで顕在化する困りごとが少ないという特徴もあるので、なかなか病院へ足が向かないのではないかと感じています。そのため医療・研究機関とも連携し、正しく新しい情報を広めることで、病気を正しく理解して早くから対策を講じてもらえるように認知・啓発を進めていければと考えています。

 

私はとにかく盛り立てていくことが大好きで得意なのですが、苦手なことも多々あります。そのため当分科会の副会長の遠藤さん、柴﨑さんをはじめ、協会の大先輩方、医療研究機関、もちろん、この分科会に参加いただく皆様のお力を借り、学ばせていただきながら、一緒に楽しくも有意義なコミュニティをつくり活動していけたらベッカー冥利につきます。ぜひ仲間になっていただき、私たち自身の、そしてまだ見ぬBMD当事者やBMDの子供たちのために明るい将来を一緒に作っていきましょう!!

 

令和4年5月1日